袋口が大きく開いて滑らず、ゴミが入れやすい「ポリ袋ホルダー」。「捨てやすく、邪魔にならない」「導線がスムーズで、料理の下ごしらえが楽しくなった」という声も。生ゴミ入れの“当たり前”を疑うことから始めた開発ストーリーをお届けします。
【ポリ袋ホルダー プロダクト担当 菅野】
▼目次
1.「生ゴミ入れ」に潜む不満を解消したい
2.捨てやすいかたちに行き着くまで
3.凹凸がなく洗いやすい。シンプルなデザイン
4.あったらうれしい機能性、広がる用途
「生ゴミ入れ」に潜む不満を解消したい
(V字に開いて、ゴミが入れやすい「ポリ袋ホルダー」)
─アイデアのはじまりから聞かせていただけますか。
プロダクトデザイナーとして初めて一から開発した製品になるんですが、入社当初のお題は「マーナから3年後に発売される製品」でした。家の中に当たり前にあるものや、生活に潜む不満をリストアップし、目をつけたのが「生ゴミ入れ」だったんです。
当時、私はシンクの中に入れるタイプの三角コーナーを使っていたんですが、洗いにくく、汚れが気になる。もっとよくできるんじゃないか、と暮らしの中で考えたのがきっかけでした。
─なるほど。私は生ゴミをポリ袋にそのまま入れていますが、袋口がちゃんと開かず捨てにくいです。
生ゴミ処理は生活の中の小さなストレスですよね。最初に、社内外で広くヒアリングをしました。ポリ袋に直接捨てる人、シンクの三角コーナーに捨てる人、みなさん生ゴミ処理の方法はさまざまでしたが、色々な意見を聞くうちに、3つの不満が見えてきたんです。
袋口が狭くて捨てにくい。使わないときにかさばる。スリットの溝が洗いにくい。
開発を進めるうえで、この3つは必ず解消しようと、心に決めました。
捨てやすいかたちに行き着くまで
─どんなことから開発に取り組んだのでしょう?
まず、生ゴミ入れのターゲットは?使用シーンは?コンセプトは?と、派生するキーワードを紙にどんどん書き出していきました。その過程で、シンクで使うのが当たり前だと思っていたけど、そうじゃないのかもと。
調理台で使えて、コンパクトで、捨てやすいかたちにできないかな?と無限にスケッチをして……。
─現状のポリ袋ホルダーとは違う形状のアイデアがたくさん!
これは一部で、もっと描いてます(笑)。アイデアを出すうちに、折りたたみ式がいいんじゃないかと、アウトドアの椅子などを参考に構造を練っていって。半年かけてやっと、V字に開く今のかたちに行き着きました。
実際にポリ袋をかけてみますね。奥から手前にかけて……
─おお、すっとセットできて、袋口が大きく開く。これは捨てやすそうです。
フレームがV字に開くことで、袋口が手前に大きく開いてゴミが捨てやすく、閉じると薄くコンパクトになる。形状が決まって、そこからまた2年、完成までの道のりは長かったです。
凹凸がなく洗いやすい。シンプルなデザイン
─どんなことに時間がかかったのでしょう?
素材の選定と細部のデザインですね。当初は強度があって安定する金属製がいいと思っていたんです。でも、手に取りやすい価格などを考慮すると実現するのが難しくて、樹脂製で開発を進めることに。
(手前の2つが金属製の試作品)
生ゴミを入れても自立する強度を補うためにどうするか。フレームを台形にして、角度や上下の幅をミリ単位で調整するなど、扱いやすい樹脂ならではの軽さを活かしながら、安定するかたちを追求しました。数えきれないほどの試作品をつくっては、社内でモニターをお願いして……。
─その甲斐あって、開いていても、閉じていても、安定していますね。
フレームの上下につけた滑り止めもポイントです。使っている最中に袋が外れてしまうことがなく、本体が倒れにくく、シンクと調理台の上、どちらでも安定するように。
滑り止めは、樹脂製にしたことでフレームと一体化させることができました。凹凸や溝がない分、汚れにくく、洗いやすくなっています。
─凹凸がなく、すっきりシンプルなデザインですね。
(右:凹凸をなくす前の試作品)
凹凸がないのはデザイン面のいちばんのこだわりです。洗いやすさと見た目の美しさを意識して。出っ張りを中に折り込んで、できるだけ薄くシンプルに。
持ったときの手当たりがいいように、全体的に角も丸くしています。
─細部にまでそんな配慮が……。2年半かけて完成したときは、どんなお気持ちでしたか?
やっとできたという安堵感が大きかったです。私一人ではたどり着けなくて、心が折れそうになる度に、先輩がアドバイスをくれて助けてくれました。サイズを決める際に、スーパーを回ってポリ袋を集めてくれたり……。先輩方が完成を喜んでくれたのもうれしかったです。
(ポリ袋を集めてサイズを検討した)
あったらうれしい機能性、広がる用途
─発売されて、反響はどうですか?
口コミはすべて拝見しているのですが、気にかけていた樹脂製の軽さをプラスに捉えてくれる方が多くてほっとしました。使ってみないとわからない、何気ない機能性に気づいてもらえるのがうれしいですね。
使いやすくて気に入ったから娘にプレゼントしたという方もいて。実は私の母も8個買って、職場の同僚や親戚に配っているそうです(笑)。
中には、生ゴミ入れ以外の使い方をしてくれる方もいるんです。計量スケールの横にポリ袋ホルダーを置き、かけた袋だけがスケールに乗るようにセットして、食材を計量している方もいて驚きました。食材の下ごしらえや保存袋への移し替えなどにも使っていただけます。
─シンプルな見た目からは想像ができないほど、機能性と用途の幅が広いですね。
個人的には、袋の中にゴミが入っているときに閉じてフタをしておけるのも推しポイントなんです。私は一人暮らしで、生ゴミがあまり出ないんですが、毎回捨てなくても閉じて置いておけるのがいいなって。コンパクトなので邪魔にもならないですし。
(閉じることで簡易的なフタに)
─ポリ袋ホルダーによって、菅野さんの暮らしも変化しているのですね。
つい先日、ポリ袋ホルダーを洗って乾かしている際に、直接袋にゴミを入れたら捨てにくくて。開発する前の私は、この状態で生ゴミを捨てていたんだ、もうあの頃には戻れない、と思いました。
“なくてもいいけど、あったらうれしいのがマーナだよね”といった口コミを見かけたんですが、まさにそんなアイテムになっているなと。かつての私のように、生ゴミ入れに小さな不満がある方は、ぜひ手に取って使ってみてほしいです。
写真:井手 勇貴
文:徳 瑠里香