よみもの

2025.2.21

ドアをポンと押すだけで解除できる「ドアストッパー」

足で踏み込むだけで固定でき、解除はドアをポンと押すだけの「ドアストッパー」。クラウドファンディング「makuake」では目標達成率4385%、2,000人以上の支持を得るほどの反響が。そんな画期的な「ドアストッパー」の開発から発売までの道のりを振り返ります。

【ドアストッパー プロダクト担当】長野
 
▼目次
1. “ちょっと押さえていてほしい”に寄り添う
2.できるだけ多くの場所・環境で使えるものを
3.最大の課題は“音”。ギリギリまで発売を検討
4.まだまだ発展途上。より良い商品を目指して
 

“ちょっと押さえていてほしい”に寄り添う


(ドアを押すだけで解除できる「ドアストッパー」

―まず「ドアストッパー」が生まれた背景をお聞かせください。

「ドアストッパーは、固定は簡単だけど解除が大変そう」という社長のひとことが起点になっています。家族がしゃがんでドアストッパーを固定したり、解除したりする姿を見てそう感じたそうです。

もっとシンプルな動作で簡単に使えるドアストッパーはないだろうか。その思いを形にすべく開発がスタートしました。

―「固定も解除も簡単」が特徴的ですね。はじめにどんなことをしましたか?

ドアストッパーをどんな時に使うか、市場のニーズを探るためにアンケートを取りました。結果を見るまでは、なんとなく部屋の空気の入れ替えをするために長時間開けておきたい時に使用するだろうという感覚がありました。でも、なんと一番多かった使用シーンは「荷物を受け取る時」だったんです。

―意外な回答ですね。

一瞬のことだけど、誰かにちょっとドアを押さえていてほしいという感覚なんですね。その一瞬の不便さに寄り添いたいと、片足でペダルを踏み込むだけで固定され、ドアを軽く押すだけで解除されるドアストッパーを目指しました。

 

できるだけ多くの場所・環境で使えるものを

 
―開発当初に意識したポイントを教えてください。

まず、シンプルな動作で使えること。荷物を受け取る時はもちろん、両手が塞がった状態でも立ったままでも、簡単に固定と解除ができることがいちばんのこだわりです。

そして、設置するドア自体の素材や構造、床材や環境などはさまざまですが、できるだけ多くの場所・環境でも使えることも譲れないポイントでした。

―いちばん苦労したのはどんな点ですか?

挙げたらキリがないくらいたくさんあります……。思い出すと泣けてきます(笑)。「踏み込んで固定して、ドアを押すだけで解除できる」というコンセプト自体は割とすぐに決まったのですが、それを形にするまでが大変で。


(最初に作ったサンプル第一号)

最初にぶつかったのが、コストバランスの壁。理想の機能を盛り込むとそれだけコストもかさんでしまって。パーツを最小限にしたり素材を選び直したりと、ユーザーが手に取りやすいよう、できる限りコスト削減の工夫をしました。


(背面マグネットは磁力をキープしつつ最小限に)

―次にぶつかったのはどんな壁ですか?

社内モニターでいろいろな人に試してもらうと、環境や状況によってしっかり固定できる時とそうでない時があって。動画で撮影して原因を探ってみると、踏み込む時、人それぞれの癖や力加減が影響していることがわかりました。

どんな人が使ってもしっかり固定できるように、もっと踏ん張る力を強化しなくてはと、底面のゴムの素材やパターンを検討したり、バネの強さを調整したりと改良を重ねました。

戸建てやマンションなどあらゆる居住環境の方に試してもらい、エラーを改善してまたモニターをお願いするの繰り返し。気づいたら何年も経っていて。


(できるだけ多くの環境に合うようストロークの長さも検証)

―なかなか出口が見えない状況のなか、続けるモチベーションは?

一緒に頑張るチームの仲間の存在は大きかったです。コロナ禍も相まって、何度も心が折れそうになり鬱々としているときも、ポジティブな視点をくれる仲間のおかげでなんとか前に進めた気がします。

またモニターをしてくれた社員から「うちの子どもでもできました」と言ってもらえたことで、やっと少し安心できたのを覚えています。大人だけでなく、子どもでも使えたんだって。そのひとことが開発を続ける心のよりどころになりました。


(試作のたび洗練されていくデザインと仕様。左が完成品)

―社内にドアの模型まで設置したというのは驚きました。

ドアメーカーにお願いして作ってもらったんです。オフィスの一角にドアが突如設置されたので、社内では「“どこでもドア”みたいだね」と言われましたが(笑)。おかげで社内のモニターもお願いしやすく検証もすぐにできるようになり、開発も一気に前進したんです。

床材もタイルやカーペットなど15種類くらいを用意。それぞれの素材で試したり、砂や水を撒いたりして、どんな条件でもしっかり固定できるかどうか実験と検証を繰り返しました。


(スニーカーやパンプスなどさまざまな靴で実験)


(しっかりと固定できるパターンと素材に)

 

最大の課題は“音”。ギリギリまで仕様を検討

 
―踏み込む時と解除時に出てしまう音が最後の課題だったそうですね。

本体内部の構造上、どうしても硬いプラスチック同士が擦れる音が出てしまうんです。

―音は環境や人の感じ方にも左右されますね。

そうですね。使用する環境にもよりますが、音が気にならない方、大きく感じる方と、それぞれあると思います。

プラスチックを柔らかいものに換えてみたり、緩衝材を入れてみたりと試行錯誤しましたが、これ以上音の軽減を優先すると、逆に耐久性や機能面が落ちてしまう恐れもあって。

―あちらを立てれば、こちらが立たないといった状態だったのですね。

お客さまにご購入前に音のことを知っていただくため、音の大きさを数値で計測して、近しい音量の“ミキサー程度の動作音”が出ることをWEBページに記載して発売することにしました。悩みましたが、発売を心待ちにしてくださる方の声が後押しになりました。

 

まだまだ発展途上。より良い商品を目指して


―「makuake」ではすごい反響でしたね。開始10分で予約数を達成したのだとか。

ドキドキしながら社員みんなで見ていました。達成したときは、社内で歓声が上がって。本当にギリギリまで迷っていたけれど「こんな商品を待っていました」「私が求めていたものです」というコメントに勇気をいただきました。この方向性で間違ってはいなかったんだって。

―無事に商品が完成して発売されて、今はどんな気持ちですか?

口コミやリアルな声で、暮らしに役立っていることを知れて、開発をあきらめなくて良かったと心から思っています。今までのストレスが一気に解消されましたとか、車イスで出入りがしやすいといったお言葉をいただいて…。

我が家では週末にお水を箱で買ったり、食材をまとめ買いしたりするので、荷物を運び入れる時に役立っています。

音も含めて課題も残っており、発売後の今も使命感でいっぱいです。100%完璧な商品はないものの、これからもより良い商品になっていくよう、よりブラッシュアップしていきたいと思っています。

写真:七緒
文:高野 瞳