しっかり固定するという基本的な機能に、取り外しやすさを加えた「REPITA(リピタ)」。この新感覚の吸盤を使ったウェットティッシュケースとキッチンペーパーホルダーがどのようにして誕生したか、お話しします。
▼目次
1.使い勝手のよさをデザインできないか
2.何度も「ピタッ」、だから「REPITA(リピタ)」
3.共通点は「片手で使えたら嬉しいもの」
4.心地よさへ昇華する道具を
使い勝手のよさをデザインできないか
あるとき、会社の倉庫で業務用のウェットティッシュが使われているのを見たんです。ロールタイプの市販品だったのですが、ガタつかないよう、容器本体をテーブルに吸着させるアタッチメントがついていました。なるほど、アイデアとしては悪くないけれど、もう少し使い勝手とデザインがよくなるのではないかな、と。それが「ウェットティッシュケース」を開発することになった、最初のきっかけです。
(最初の試作品)
既存のロールタイプのウェットティッシュは、容器のフタを開けて、片手で本体を押さえながらもう片方の手でティッシュを引っ張るものがほとんど。でもティッシュを使いたいときって、手がふさがっていたり汚れていたりすることが多いですよね。だから、一連の動作が片手でできたら便利なのではないかと着想しました。
何度も「ピタッ」、だから「REPITA(リピタ)」
マーナが開発したこの吸盤には、「繰り返し」「再び」の意味を持つ「RE」と、張り付く感覚の「ピタッ」の音を組み合わせて「REPITA」というネーミングを採用しました。
弊社ではこれまでも吸盤を使った商品はいろいろ出しているのですが、たとえばシンクに張りつけるスポンジホルダーなど、一旦くっつけたら取り外さない性質のアイテムばかりだったんです。吸盤はそれが一般的な使い方ですからね。
(半年で60パターンほど試した吸盤部分)
でも今回はそうではなく、しっかり吸着する、それでいて簡単に取り外しできるものにしたい。そこが開発の肝になりました。吸盤ってそもそもなんでくっつくんだろう?という仕組みから探求を始めて、試作をつくっては同僚たちに自宅で使ってもらって……の繰り返し。その間、頭のなかはずっと吸盤のことばかり。試作を見つめては考え、寝ているときでも目を開けていたのではないかというくらい(笑)。
さらに、機能性を維持しながら、全体のデザイン性も追求しました。
ポイントは、吸盤部分が下に向かってすぼんでいる形状。手で触ると自然に持ち上がるようになっています。これが、動作のしやすさと、吸盤の外れやすさを実現しています。
共通点は「片手で使えたら嬉しいもの」
この吸盤を他のアイテムにも応用できるのではないかということで「キッチンペーパーホルダー」も開発を進めました。
ただし、ウェットティッシュとキッチンペーパーでは、手で切るときの力のかかり方が違うんです。ウェットティッシュは上に引っ張って取り出すのに対して、キッチンペーパーは横に引っ張ります。吸盤の面積もだいぶ違うため、こちらはこちらでいろいろ試しました。
それからやはり、ペーパーが片手で切れるということが肝要と考え、切れやすく、それでいて回しやすい抵抗感になるように調整しています。
全体的なデザインのポイントとしては、一般的にタテ型のキッチンペーパーホルダーは土台がしっかりしたものが多いと思うんですが、そこをコンパクトにしたところ。きちんと回転して、きちんと紙が切れて、ガタつかない。そうした条件を満たしたうえで、テーブルの上にキッチンペーパー本体だけが置いてあるような、ホルダーの存在を感じさせないスマートなデザインになっています。
(キッチンペーパーのサイズに合わせて選べる2サイズ展開)
「ウェットティッシュケース」に関しては、ティッシュの取り出し口の形状にも苦心しましたね。市販のティッシュにはいろいろなタイプがあります。切れづらくて何枚も連なって出てきてしまうこともあれば、反対に、切れやすいあまり次のシートが取り出し口に出てこないといったことも。
さらに、ティッシュが乾かないように密閉しなければならないのですが、密閉度を求めて硬い材質にすると、フタの開け閉めがしにくくなる。でも柔らかくすると、ティッシュが切りづらくなってしまうんです。では取り出し口を狭くすればいいかというと、それではティッシュが通しづらくなる。あちらを立てればこちらが立たずといった具合で、そうした相反する要素をまとめて解決できる形状はないか、型を手づくりして試行錯誤しましたね。
(取り出し口がシリコーンで覆われたフタとパッキンで密閉)
心地よさへ昇華する道具を
生活雑貨をデザイン設計する仕事の醍醐味のひとつは、お客様の反応がダイレクトに返ってくるところです。よい声をいただけることもあれば、その逆もありますが、どちらも、改良品や新商品へ向けたやりがいに火をつけられます。
世の中には便利な道具がいくらでもあるなか、使うことで「心地よさ」までが感じられるアイテムづくりというのが、マーナらしさではないかと思っています。
(実際に自宅にて使用している様子)
ペーパーの切れ味や、フタの開く速度など、細かなところまで配慮した「使いやすさ」が、生活になじむかたちで昇華されることで、「心地いい」になるのではないか。そこまで含めての「デザイン」だと考えています。
そういう意味では、今回の商品はまだ発売されたばかりで、お客様のリアルな反応をいただけるのは、これからです。現時点では満足できる商品が完成したという自負がありますが、お客さまの声によってよりよいものに改善していける余地は、きっとまだあるのだと思います。
(インテリアに馴染みやすい、やさしいブラックとホワイトの2カラー展開)
写真:藤田二朗(photopicnic)※4,9,12,13,14枚目はマーナ提供
文:野村美丘(photopicnic)