製品開発の裏話をお届けするこのコーナー。今回は、お肉など食材の切り心地にこだわった「料理のハサミ」をご紹介いたします。
−−−開発のきっかけを教えてください。
「どうしても、包丁とまな板を出したくない日がある」という子育てママのTwitterのつぶやきを目にしたことです。子供のためにもご飯はつくりたい、でも今日は疲れていて…という心の葛藤に共感しました。仕事と家事に忙しい毎日を送る多くの女性が同じような想いになることもある、マーナで何かできることはないかと思いました。
調理中の動作を考えると、色々な食材を切るので包丁とまな板を頻繁に洗います。これが面倒な理由ではないかと思いました。
−−−包丁とまな板、何度も洗ってます!
一方で、キッチンバサミで様々な食材を切っている人がいることもわかりました。私自身は、袋を開けたり海苔を切る時しか使ってなかったので新しい発見でした。
キッチンバサミで食材を切ってみると、フライパンの上やトレイの中で切れるので、まな板を出さずに手軽に使えることがわかりました。ただ、お肉はすべるので切るのが大変で…、もっと包丁のように切れるキッチンバサミがあったらいいなと思い、開発を着手しました。
−−−「お肉のプロと開発」とパッケージに書かれていますね。
お肉について専門家に色々教えていただこうと、プロを育成する全国食肉学校の先生を訪ねました。お肉を美味しく食べるためには「筋取り」をすると口に入れた時の異物感がなくなる事など学びました。ただ「筋取り」って素人では包丁でも難しい。細かい作業もしやすいハサミにしたいと思いました。
監修いただいた全国食肉学校、佐俣宏紀先生
−−−開発する中で苦労した点はどこですか?
切り心地です。刃の形は色々なパターンを考えました。厚めのお肉も切れて、細かい作業もできるものを目指し、刃やハンドルのデザインを変え、20パターンほど試作品を作りました。
−−−最終この「ギザ刃」と「先薄刃」の組み合わせになったのですね。
もっと粗いギザギザの刃も試しましたが、鶏皮などが滑らずしっかり掴めて切るには細かい刻みがベストでした。また、刃の先端はできるだけ細く・薄くすることで、繊細な作業もできるようにしました。
−−−持ち手についても、詳しく教えてください。
これまで私が使っていたキッチンバサミは、ハンドルが堅い素材で、開く時に外側に指が当たって痛かったんです。そのため、指が当たる部分は柔らかくしました。
そして、社内モニターで感じたのですが、手の大きさはもちろん、ハサミの持ち方も全部指を入れる人、小指だけ出す人など様々でした。何度も検証を終えた最後のモニター段階では通常大幅なデザイン変更はないのですが、ハンドルの間に指を挟んだという意見が一人からあがりました。詳しく聞くと左右のハンドルが当たる箇所に出していた小指を挟んでしまうことがわかり、慌てて形状を変更しました。
左が最終品、右はハンドルが当たる箇所が先端にある
−−−そんなに細かい調整もしているのですね。他にこだわった点はありますか?
市場のキッチンバサミには、缶やプルタブを開ける機能など、多機能なものもありましたが、時代に合わない機能も多いと感じました。実は途中まで「肉たたき」の機能を付けようと考えていたのですが、刃物としてのハサミにこだわり、余計な機能は盛り込みませんでした。
また気軽に使えるよう軽さも重視しました。必要な刃渡りはありながら、刃の幅をスリムにしました。製品重量は約92gです。
肉たたきを付けた試作品
−−−簡単に分解できるのもいいですね。
先生にも生肉を切ると細菌が付着するので、しっかり洗う必要があるとアドバイスをいただいていて、お肉を切るには欠かせない構造でした。お手入れのしやすさにこだわり、つなぎの部分は、凹凸の少ないシンプルな形にしています。
−−−お肉以外に、これは切りやすいと思ったものはありますか?
豆苗を使う分だけカットしたり、小松菜のような葉物野菜は広いまな板が必要ですが、そのままフライパンや鍋にカットしながら入れることもできるのでおすすめです。細かい作業が得意なので、タコさんウィンナーも簡単。切ってみて驚いたのですが、プチトマトもサクッと切れますよ!
−−−製品名は「料理のハサミ」ですね。ネーミングのこだわりはありますか?
料理に使いやすいのはもちろんですが、料理が面倒とか嫌いと思う人の中には「ちゃんとしなきゃ」という真面目な気持ちがあったり、ハサミで料理をする方法があると知っていても、手抜きのようで後ろめたい気持ちになる人もいるのではないかと思いました。
そこで、名前を「料理のハサミ」にすることで気軽に料理に使える2本目の包丁として罪悪感なく料理に使ってもらいたいという気持ちでこのネーミングにしました。
−−−使った方からはどんな声が上がりましたか?
「切れ味がいい」という声を多くいただいています。一番こだわった点が評価されたのは嬉しいです。また、「ハサミだけで料理できるなんて思ってもみなかった」と「料理のハサミ」をきっかけに、ハサミで料理をする習慣ができたという声も社内外から届き、開発して良かったなと思いました。
−−−そして、グッドデザイン賞の受賞、おめでとうございます!
ありがとうございます!また、今回、審査委員の皆さんが気にいったデザインを一つ選ぶ「私の選んだ一品」にも選出いただきました。ハサミを日常的に仕事で使われているテキスタイルデザイナーの安藤陽子さんが推薦して下さったと聞いて、本当に嬉しかったです。
−−−どんな方に、どんなシーンで使っていただきたいですか?
料理をするすべての方に、ちょっと疲れてたり、面倒だなと感じる日でもこの「料理のハサミ」を2本目の包丁のような気持ちで気軽に料理をしていただけたらと思います。