2025.3.28
第10回はジャーナリスト・作家の佐々木俊尚さんが登場。「小さなイライラを減らすことが心地よい」と話す佐々木さんの、お気に入りのマーナアイテムとは。
変わりゆく時代を思考し、届けるのがジャーナリスト・作家である佐々木俊尚さんの仕事。
毎朝のラジオ配信にTV出演、執筆業。ともすれば、仕事一辺倒になりそうなものですが、家でごはんをつくり、東京・軽井沢・福井の3拠点生活をしながら、趣味の山登りも楽しみます。
その土台にあるのは軽やかさ。拘泥することなく、今の自分に合う心地よさを求めることが、健全さにつながると話します。
「暮らしに完璧なゴールはありませんが、小さなイライラに目を向け、改善を重ねることで、人生の質を上げられると思うんです。たとえば最近アウトドア服で暮らすように。アメリカで“ゴープコア”と呼ばれるトレンドで、速乾性があり急な雨にも対応できるし、軽くて楽なんです」
以前はドイツ車に乗っていましたが、今は軽自動車を軽井沢と福井に1台ずつ。デザイナーズのテラスハウスだったご本人曰く「小さな美術館のようだった」東京の家は、駅近くの過不足ないマンションに。
変化のきっかけは、東日本大震災の影響が大きいそう。ブランドで身を固め、美食に舌鼓を打つより、気心知れた友人とクラフトビールが心地よい。そういう感覚は私たちにも身に覚えがあるものです。
「リーマン・ショックや震災が起きて、2000年代に残っていたバブリーな空気が一気に吹き飛びました。災害時、ブランドは身を助けてくれない。であれば日常は実用的なもので十分。社会全体で見ても、機能回帰が進んでいます」
とはいえ機能だけを追い求めると、時に味気なさへ行き着くことも。でも佐々木さんは、楽しみを手放しません。
(大根の梅酢漬けの下準備)
毎日の料理は、簡単につくれてちゃんとおいしいものを。その“家めし”の在り方は多くの人に支持を受けており、語る言葉から食卓の情景が立ち上がってきます。
「月2回、農家さんから野菜がどっさり届くので、素材を活かして、流れる水のようにつくります。里芋が届いたらゆでてつぶしてコロッケに。梅干しとのりを混ぜて和風ポテサラにしても。昼間からアイリッシュシチューを煮込んで楽しむこともあります」
キッチンツールは使いやすく、シンプルなデザインを厳選しているそう。たとえばフライパン。料理本を出版するほどの腕前にもかかわらず「鉄じゃなきゃ」など凝ることはせず、手入れしやすいフッ素樹脂加工ものを愛用。
だって毎日は続いていく。こだわりすぎて疲れるより、イライラが少なくて、軽やかに使える方がとびきりいい。
(キッチンツールはワイン木箱におさまるだけ)
「あとピーラーも使いやすかったです。刃がひっくり返らないため、ストレスなく、するするむけます。菜箸は先端に小麦粉のだまがつきにくく、木製のように折れる心配もない。キッチンになじむデザイン性もお気に入りです」
変化する時代を読み、やわらかな頭で思考しながら、小さく改善を積み重ねる。そうすれば、今日より明日、明日より未来がいいものになっていくと気付かされます。
「僕たちの暮らしってある日、劇的には変わらない。だけどイライラを地道に減らすことで、確かに人生の質は上がる。なんてちまちました人間なんだろうって自分でも思います(笑)」
写真と文:七緒